人間中心設計やデザイン思考の活動の中で、自分もしくはチームが、ユーザーを「客観的に」「正しく」見れているか不安に思ったことはありませんか?
そんな経験がある方へ、今回はCULTURELABS内で議論したちょっと異なる視点でのデザイン思考・人間中心設計について紹介します。
私が行うプロダクトデザインの伴走支援や研修でもこの要素を取り入れており、参加いただいた皆さんから評価いただいています。
なお、一般的な人間中心設計の考え方や定義を否定するものではありません。プラスで取り入れるべき視点です。
ユーザーを客観的に理解することのジレンマ
私は当初、人間中心設計というと「ユーザーを『正しく』理解する」ことを最重要と考え、作り手の主観を排除し「客観的に理解する」ことに主眼を置いていました。
観察やユーザーインタビューにおいても、いかに客観的に見るかを意識し、チームメンバーに対しても「客観的に見ること」を求めました。
ですが、その一方で「私は(チームは)客観的にユーザーをできていないのではないか」という不安を常に抱えていました。
真摯にユーザー理解に向き合っている皆さんは、少なからずこの不安を感じたことがあるのではないでしょうか。
デザイン思考、人間中心設計は当然に作り手の主観を通すもの
結論から言うと、この不安を直接的に解消することはできません。
その理由は簡単で、デザイン思考でも人間中心設計でもユーザー中心主義でも、「作り手である『人』がユーザーを理解する活動」だからです。
ユーザーの言動の背景に文化、生活、価値観などがあるのと同じく、作り手にもそれぞれの背景があります。
作り手も人間ですので、どれだけ客観的に見ているつもりでも、あくまで作り手が持つ背景に基づいてユーザーを理解することになります。
「客観的に見るべき」という言葉はいかにも正しそうですが、作り手が持っている背景の存在を無視しようとしていることが分かります。
デザイン思考や人間中心設計を進めるためには、「作り手は主観に基づいてユーザーを理解している」ことを前提として認めることが必要です。
私はこれを「作り手のレンズを通す」と表現しています。
人間中心設計とは「人」と「人」とのぶつかり合い
そうすると、私たちはデザイン思考や人間中心設計について新たな視点を持つに至ります。
一般的な「ユーザーという『人間』を理解する」視点に加えて、「作り手という『人間』がデザインする」という視点です。
つまり人間中心設計は、ユーザーと作り手双方の「人間」にフォーカスを当てたデザイン手法、プロセスだと理解することになります。
私は伴走支援や研修の場では「個性と個性のぶつかり合いが人間中心設計の核である」と伝えています。
ユーザーインサイトの理解にはたくさんの正解がある
ここで認識しないといけないのは、「作り手のレンズを通す」ことから、同じユーザーを対象としていてもチーム全員が同じ理解にはならない、むしろ違って良い、ということです。
コンサルティングや研修を行っていると、クライアントチームの方からユーザーの観察やインタビューの後に「ユーザーに対してこういう理解をしたが合っていますか?」と聞かれます。
ユーザーを理解するためのプロセスや考え方については問題があれば改善策をお伝えしますが、その人が至った結論については何でも正解だと回答しています。
そもそも、ユーザー自身が自分の言動の裏側にあるインサイトを正確に理解できていません。答え合わせはできないのです。
真摯に理解しようとする姿勢、それを可能にする環境を備え、プロセスを踏んだのであれば、そこから生まれたあなたの理解・解釈は正解です。
一方で、一人の正解だけで押し進めると、それは偏った価値観や経験に基づいて進めることを意味します。一番危険なのは、上司や経験者、専門家による鶴の一声ですね。
だからこそ「多様なメンバーが集うチーム」でプロジェクトを進めることが重要となります。
多様なチームの中では、様々な価値感、視点に基づいた正解が持ち寄られ、それらをぶつけ合うことによって、新しい発見や発想が生まれます。
作り手チームの中でも「個性と個性のぶつかり合い」を起こすわけです。
最後に
今回はデザイン思考や人間中心設計において、「作り手という『人間』がデザインしている」という視点を持つことの必要性を書きました。
事実としては当たり前のことですが、それを正面から受け止めた上でプロセスやメソッドを構築・適用し、新たな視点に実効性を持たせることが重要となります。
また、これは新規事業開発やイノベーションの文脈だけでなく、日常業務においてチームで何かを理解して物事を進める場面でも取り入れるべき視点です。まずは「それぞれの理解に違いがあること」をお互いに認め、歓迎するルールの導入から始めてみるのも良いでしょう。
実は人間中心設計推進機構では人間中心設計を「モノ・コトに対して、『利用者視点』と『共創』によって新しい価値を生み出すことであり、『問題の設定 (発見) 』と『解決策の探求 (創造) 』と『繰り返すこと』を中核とした 『メソッド (プロセス+手法) 』と『マインドセット (心構え・捉え方) 』」と定義しています。(https://www.hcdnet.org/certified/news_certified/hcd-1546.html)
ここまで読んでいただいた方は「利用者視点」と並列して「共創」が入っていることの意義を明確に捉えることができるのではないでしょうか。
さて、今回の記事では「多様なメンバーが集うチーム」や「多様性」について少し触れただけとなりましたが、また別の機会に書きたいと思います。
本記事について詳細を知りたい方は contact@culturelabs.co へご連絡ください。
Comments