「最小限の投資」でプロジェクトを成功に導く方法 ― MVPの考え方をアップデートする
- Ryota Ogawa
- 4月18日
- 読了時間: 6分
更新日:5月12日

「最小限にする」は合意してるのに、なぜこんなに揉める?
「MVPで小さく始めましょう」
そう言うと、たいていのプロジェクトメンバーは頷いてくれます。誰もが、最初から大きく作り込みすぎて失敗するのは避けたいと思っています。
しかし、「どこまでをMVPに含めるか?」という話になると、空気が少し変わります。同じ「最小限」のはずなのに、人によって指しているものが全然違う。なんとなく「その機能はMVPに入れるべきじゃない気がする」と感じる人もいれば、「いや、これは最初に入れておかないとダメでしょ」と思う人もいる。
MVPは、小さく始めるための合言葉のようでいて、実際にはプロジェクトの価値や目的に関するプロジェクトメンバー間の認識の差異が浮き彫りになる問いでもあります。
私自身の経験でも、こうした「ズレ」が解消されないまま進んだ結果、当初の想定よりもずっと大きな投資になってしまったプロジェクトを何度も見てきました。
そこで今回は、「最小限の投資で成果を出す」ための一歩として、MVPの考え方を現場で使える形に落とし込む方法を紹介します。
MVPとは何か?

最初に、あらためてMVPとは何かを再確認しておきましょう。MVP(Minimum Viable Product)とは、プロダクトや施策の価値仮説を検証するために必要最小限の構成要素のことです。完成品を目指すのではなく、このアイデア、意味があるのか?を素早く現場で確かめるための「実験装置」のようなものです。
意外とこの定義からズレているケースもありますので、改めて再確認した上で、次に進んでいきたいと思います。
MVPがズレる理由、 それは「最小限」という言葉に潜む「感覚の違い」
MVPについて話すとき、現場でこんな言葉をよく聞きます。
「この機能がなかったら、そもそも価値が伝わらないと思うんですよね」
「いや、それって最初にやる必要ありますか?」
「ユーザーにとっては、ここが使いやすくないと意味がないと思います」

それぞれの主張には理由がありますし、どれも正しく聞こえるのですが、そのまま話がかみ合わず、平行線になったり、どちらかが妥協した結論になることが多いのではないでしょうか。
その原因のひとつが、「最小限」という言葉の曖昧さです。
「最小限」とは、いったい何に対しての最小限なのでしょうか。ユーザー体験でしょうか?コスト?それとも、リスク回避の観点?
立場や視点が異なれば、「削れるもの」と「削れないもの」の線引きも自然とずれていきます。
たとえば、ビジネスサイドが「信頼性の確保が最優先なので、入力ミスが起きない設計はMVPに含めたい」と考えていたとします。一方で、ITサイドは「そのリスクは初期フェーズではオペレーションで吸収できます。実装は後回しでも良いのでは」と判断することもあります。
どちらも間違っているわけではありません。ただ、「何をMVPに含めるか」という認識がそもそも揃っていないのです。
解決のヒント①:価値の性質で分けて、共通言語で話す
MVPをめぐるズレをなくすには、最小限を「感覚」ではなく、構造として捉えることでこの問題の解決につながります。そのためにまず「その機能や要件は、どんな性質の価値を持っているのか?」を考える必要があります。
「攻め」と「守り」で価値を分けてみる
プロジェクトの中には、「新しい価値を届ける」ための要素(攻め)と、「リスクを回避する」ための要素(守り)が混在しています。この2つの性質を分けて考えることで、「何をどこまでMVPに含めるべきか?」の議論が整理しやすくなります。
そしてそれぞれの性質ごとに、MoSCoW法(Must / Should / Could / Won’t)を使って判断の基準を言語化しておくと、チーム内での合意形成がスムーズになります。
■ 攻め(価値創出)の要件と分類例
Must:仮説検証のためにユーザーの行動を必ず引き出さなければならない要素 (例:申請できる、連絡が取れるなどのコア導線)
Should:行動はできるが、価値が正しく伝わるかに影響する補助要素(例:導線の整理、入力補助、ラベル改善など)
Could:価値検証には直接関係ないが、体験や継続性に寄与する要素(例:完了メッセージ、アニメーション、ビジュアルの工夫など)
Won’t:今はやらない。将来の成長や差別化の要素として検討(例:レコメンド、分析ダッシュボードなど)
■ 守り(リスク対策)の要件と分類例
ここではPMBOK(Project Management Body of Knowledge)の知見を活用できます。PMBOKでは、「リスクの発生確率 × 影響度」でリスクを評価し、対応優先度を定めるのが基本です。
Must:損害回復が不可能、または法令違反・重大な業務停止につながる(例:認証、ログ保存、帳票出力など)
Should:一時的な混乱や非効率は起きるが、回復可能(例:監査ログ、手順ミスの検知など)
Could:起きても影響が小さく、回避・是正も容易(例:警告表示、ダイアログの有無など)
分類だけでなく、言葉にして“会話できる状態”をつくる
分類すること自体よりも、それを共通言語としてチーム内で使えることが何より大切です。「これはMustでいい?」「Couldに落とせるかな?」と自然に話せる状態になっていれば、ズレの多くは回避できます。
解決のヒント②:MVPは「変わるもの」として捉える
MVPというと、一度決めたらずっとそれで進めていくものと思われがちですが、実際にはそうではありません。
MVPはプロジェクトのフェーズや検証目的、その機能を誰が使うかによって、柔軟に定義し直すべきものです。
たとえば、プロジェクト初期のMVPは「このサービスに価値があるか?」を確かめることが目的です。そのとき必要なのは、「完璧に使える」ことではなく、「試してみたくなる」、「最小限の行動を引き出す」ことかもしれません。
一方、導入フェーズでは「安定して継続的に使えるか」「組織で使い回せるか」が焦点になります。同じ機能でも、求められる「最小限」がまったく変わってくるのです。
また、使う人が誰かによっても基準は変わります。顧客なのか、社員なのか、委託先なのか。その人たちのリテラシーや期待値、運用環境によって、「これさえあればOK」の中身はまるで違います。
MVPは一度決めたら終わりではなく、都度問い直して定義し直すものと捉えることが大切です。
最小限で成功するために「定義と会話」をすすめよう

「小さく始めるべきだ」という方針には、たいていのプロジェクトで合意が取れます。でも、そこで終わってはいけません。
本当に重要なのは、「何を小さくするのか?」、「何を確かめるために、それを含めるのか?」を、共通の視点で話せる状態をつくることです。
そのためには以下が必要です。
価値の性質(攻め/守り)で分けて考えること
MoSCoWなどのフレームで言語化し、共通言語として使うこと
フェーズや対象ユーザーごとに、MVPを定義し直すこと
こうした小さな工夫が、最小限の投資で、最大限の学びと前進を得るための鍵になります。
皆さんの目の前にあるそのMVPは本当に「最小限」ですか?
それとも、「安心のために、少しずつ足していってしまった結果」でしょうか?
本記事について詳細を知りたい方は contact@culturelabs.co または ryota.ogawa@culturelabs.coへご連絡ください。
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