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執筆者の写真Ryota Ogawa

ユーザーインタビューで”Why”を5回繰り返してはいけません

更新日:7月31日



■”Why”を繰り返すという神話

「”Why”を5回繰り返せば真実が明らかになる。起きている問題の根本的な原因に辿りつける。これをユーザーインタビューでも実践すれば、ユーザーの困りごとの根本原因や真に求めていることを探ることができる。」

私がユーザーインタビューに関わり始めた当初に某セミナーで教わったことです。一般に「5 Whys」や「なぜなぜ分析」と言われるものです。

あまりにも有名なこの手法を、顧客・ユーザーインタビューだけでなく、部下との面談やお子様との会話などでも使われている方も多いのではないでしょうか。

当時、金融機関でデザイン思考の実践的導入を担っていた私は、早速自分自身が行うインタビューにもこの5 Whysを取り入れ、それに基づいた社内研修も実施しました。

しかし、何度もインタビューを実践しているうちに違和感を感じ始め、今ではインタビュー研修の中で、「”Why”を極力使わないで」と伝えています。

当時私のインタビュー研修を受けた皆さん、ごめんなさい。。。


まず誤解を避けるために最初に言いますが、「5 Whys」や「なぜなぜ分析」自体は正しいと考えています。

これらはリーンシックスシグマやトヨタ生産方式などで語られ、主に問題の原因分析するためのとても分かり易くて効果的な優れた手法だと言えるでしょう。

問題はこの手法をどのような場面で適用するかです。

少なくともインタビューのような「人との会話」に適用してはいけません。



■”Why”を繰り返す=事実と乖離した回答を求めている

実際にインタビューにおいて”Why”を使用したとき、対象者に何が起きているのでしょう?

まずは今この記事を読んでいるあなたへの質問です。


「あなたはなぜこの記事を読んでいるのですか?」


きっと多くの方が、ご自身の行動に正当な理由をつけ、言語化して回答できるように頭の中で構築したのではないでしょうか。

人は自分の言動に対して”Why”と問われると、意識的・無意識的問わず、回答を「創作」してしまいます。

一度の”Why”であればインタビュー対象者も少しの創作を行えば回答できるので、事実からの乖離は小さいかも知れません。

しかし、さらに重ねて何度も”Why”と聞かれると、インタビュー対象者は創作に創作を重ねる必要に迫られ、その乖離は大きくなります。

このとき、実はインタビュアーは事実に近づこうとしているのではなく、納得いく回答を作れと対象者に迫っているのです。


さらに厄介なことに、この創作には「自分の行動を正当化したい」というバイアスがかかります。

インタビュアーの経験がある方の中には、「あ、この対象者、いいこと言おうとしてるな。」と気付いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このとき「あの対象者はいいこと言おうとしてるからあまり参考にならないな」と切り捨てようとする場面が散見されます。

でももしかしたら、質問の仕方に工夫の余地があるのかもしれません。




■”Why”ではなく、”What”を使おう

では、どのように質問すればよいのでしょう?

一つの方法ですが、”Why”ではなく”What/When/Where/Who”に変えてみるのが効果的です。

先ほどの質問をこう変えます。


「あなたは”何を”見てこの記事を読んでみようと思ったのですか?」


“Why”が対象者に「創作」を求めるのに対し、”What/When/Where/Who”は「記憶」を求めることができる疑問符です。

対象者は過去の記憶の中にある事実をそのまま回答してくれるでしょう。

“What”を繰り返していくことで事実が積み重ねられ、対象者のインサイトを明らかにすることができます。

(事実の積み重ねから対象者のインサイトをどうやって掴むのかはまた別の記事にて・・・)


やってみると分かるのですが、事実の積み重ねからインサイトを明らかにする工程には時間と手間を要します。一言でいうと、とても「面倒」です。

その点、”Why”を使うとあたかもインサイトらしい回答に簡単に到達できてしまうので、安易に用いてしまいます。ですが、前述のとおり、それが事実を捉えているかは疑問です。「面倒」な部分を対象者による「創作」に委ねているに過ぎません。

そもそもインサイトはそう簡単に見つかりません。


本来、事実の積み重ねからインサイトを探る工程は、デザイン思考や人間中心設計における作り手の重要な作業です。このことはまた別の記事で紹介したいと思います。



■実践してみよう

この記事に少なからず納得いただいた読者の方は、次のインタビューで実践してみようと思われているかと思います。

ですが、これは部下や同僚、取引先や、家族との会話でも同じことが言えます。

“Why”を”What”に変えるのは、「言うは易し、行うは難し」ですので、いろんな場面で意識することから始めてはいかがでしょうか。

かくいう私も、ちょっと気を抜くとつい「なぜ」と質問してしまいます。日々の意識が重要です。


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